シングルマザー、はじめました。vol.7 ―パニック―

「養育費減額調停を起こすから、戸籍をここへ送付してほしい。」

その言葉と一緒に指定された住所は、相手の職場だった。

その通知を見た私は、心底 人を馬鹿にしている人だなと思った。

調停を起こされる側が、戸籍を取って相手に送る?

そんな人間が、どこの世界にいるのだろうか。

弁護士も裁判所も首をかしげていた。

「自分で用意して調停を起こすものらしいです。」

そう返信しただけでも、相手にかなり誠意を示したと思う。

 


 

それから約半年、なんの音沙汰もなかった。

いつ来るかも分からない、裁判所からの通知。

何も起こらない時間は、嵐の前の静けさのように不気味だった。

いつ来るか分からない通知を待つだけの毎日。

それのためにお腹を壊す日々になるくらいなら、忙しくしてしまおうと思った。

余計なことを考えなくて済む。

そしてお金も稼げる。

一石二鳥だと思った。

でもその選択が、私を余計に苦しめた。

 


 

新しい仕事に応募すると、2つ在宅の仕事を増やすことができた。

1つ目の仕事を覚えたころ、2つ目の仕事の契約が完了した。

ちょうどそのころ、養育費減額調停の書類が裁判所から届いた。

「はいはい、対応しますよ~」

やさぐれながら開けた封。

その内容に、また震えた。

離婚後に産まれた子どもに加えて、さらに現在も妊娠中だと書かれてあった。

「は!?」

時系列、一体どうなってるのだろう。

その時点で、まだ離婚成立してから2年半ほどしかたっていなかった。

いろいろな考えが頭を駆け巡った。

でも、とりあえず現実を整理するほかなかった。

 

まずは、裁判所へ送付する回答書を書かなくては。

…感情的になりすぎて、冷静な文章が書ける気がしない。

 

そういえば、新しい仕事のマニュアルを読もうとしてたんだ。

それからやっていこう。

…あれ?マニュアルの内容が全く理解ができない…。

 

そうだ、フリーペーパーの仕事の納期迫ってたんだった。

慣れたものからなら、できるはず。

…あれ?まとめることができない…。

 

いや待て待て。

明日くる仕事の手順を確認しよう。

…あれ?

どこをどう見たらいいんだっけ…?

 

気が付けば、頭の中の言葉も映像も何も見えなくなり、脳内が真っ白になっていた。

まだお昼を過ぎた時間だった。

気が付けば、涙を流したまま荒い呼吸を続けていた。

うまく吸えない息を整えようがないまま、

詰まり始めた仕事を諦められず

開いたノートパソコンを前に、もがき続けた。

 

そんなことは初めてだった。

目から入る情報は何の意味も持たずに、新しいことも頭に入らない。

それどころか、それまでできていたことさえ出来なくなっていた。

「やばいやばいやばい…」

それだけがグルグルと頭に浮かんできて、手探りでスマホを探した。

 

「子どもを迎えに行かなくては」

それだけが、一筋の光のようにハッキリと頭に浮かんできた。

そしてそのことがかろうじて私を現実につなぎ止めた。

気が付けば私は、以前訪問してくれた児童相談所の担当の方へ連絡していた。

 

パニックのまま「しなくてはいけないこと」を羅列して話していたと思う。

担当の方は、すべてを聞き終わって

「すべてが重なりすぎたんだね」

と私をなだめてから、話を続けた。

「冷たく聞こえるかもしれないけれど、お母さんの状況は置いといて

私の立場上、まずは子どもの安全を確保することが最優先になる。」

そう言われたとき、ようやく私は安心して呼吸を取り戻すことができた。

「私がどうにかなったとしても、子どもを守ってくれる人はいる。」

児童相談所の担当の方の言葉は、冷たく感じるどころか救いだった。

そして、ようやく呼吸の仕方を思い出すことができて、普通の呼吸に戻った。

 

【連載に関するお知らせ】

10話の完結まで、一気に書く予定でした。

でも書き進めるうちに、思っていた以上に心の奥に当時のことが残っていることに
気が付きました。

今はまだ、うまく文章に落とし込むことが出来ません。

続きは整理を済ませて、
書けるようになった際
発表させていただけますと幸いです。

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この記事を書いた人

出来事と思考の断片を言葉にしている。
実体験をもとにした物語を連載中。

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