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連載もの

「養育費減額調停を起こすから、戸籍をここへ送付してほしい。」
その言葉と一緒に指定された住所は、相手の職場だった。
その通知を見た私は、心底 人を馬鹿にしている人だなと思った。
調停を起こされる側が、戸籍を取って相手に送る?
そんな人間が、どこの世界にいるのだろうか。
弁護士も裁判所も首をかしげていた。
「自分で用意して調停を起こすものらしいです。」
そう返信しただけでも、相手にかなり誠意を示したと思う。
それから約半年、なんの音沙汰もなかった。
いつ来るかも分からない、裁判所からの通知。
何も起こらない時間は、嵐の前の静けさのように不気味だった。
いつ来るか分からない通知を待つだけの毎日。
それのためにお腹を壊す日々になるくらいなら、忙しくしてしまおうと思った。
余計なことを考えなくて済む。
そしてお金も稼げる。
一石二鳥だと思った。
でもその選択が、私を余計に苦しめた。
新しい仕事に応募すると、2つ在宅の仕事を増やすことができた。
1つ目の仕事を覚えたころ、2つ目の仕事の契約が完了した。
ちょうどそのころ、養育費減額調停の書類が裁判所から届いた。
「はいはい、対応しますよ~」
やさぐれながら開けた封。
その内容に、また震えた。
離婚後に産まれた子どもに加えて、さらに現在も妊娠中だと書かれてあった。
「は!?」
時系列、一体どうなってるのだろう。
その時点で、まだ離婚成立してから2年半ほどしかたっていなかった。
いろいろな考えが頭を駆け巡った。
でも、とりあえず現実を整理するほかなかった。
まずは、裁判所へ送付する回答書を書かなくては。
…感情的になりすぎて、冷静な文章が書ける気がしない。
そういえば、新しい仕事のマニュアルを読もうとしてたんだ。
それからやっていこう。
…あれ?マニュアルの内容が全く理解ができない…。
そうだ、フリーペーパーの仕事の納期迫ってたんだった。
慣れたものからなら、できるはず。
…あれ?まとめることができない…。
いや待て待て。
明日くる仕事の手順を確認しよう。
…あれ?
どこをどう見たらいいんだっけ…?
…
気が付けば、頭の中の言葉も映像も何も見えなくなり、脳内が真っ白になっていた。
まだお昼を過ぎた時間だった。
気が付けば、涙を流したまま荒い呼吸を続けていた。
うまく吸えない息を整えようがないまま、
詰まり始めた仕事を諦められず
開いたノートパソコンを前に、もがき続けた。
そんなことは初めてだった。
目から入る情報は何の意味も持たずに、新しいことも頭に入らない。
それどころか、それまでできていたことさえ出来なくなっていた。
「やばいやばいやばい…」
それだけがグルグルと頭に浮かんできて、手探りでスマホを探した。
「子どもを迎えに行かなくては」
それだけが、一筋の光のようにハッキリと頭に浮かんできた。
そしてそのことがかろうじて私を現実につなぎ止めた。
気が付けば私は、以前訪問してくれた児童相談所の担当の方へ連絡していた。
パニックのまま「しなくてはいけないこと」を羅列して話していたと思う。
担当の方は、すべてを聞き終わって
「すべてが重なりすぎたんだね」
と私をなだめてから、話を続けた。
「冷たく聞こえるかもしれないけれど、お母さんの状況は置いといて
私の立場上、まずは子どもの安全を確保することが最優先になる。」
そう言われたとき、ようやく私は安心して呼吸を取り戻すことができた。
「私がどうにかなったとしても、子どもを守ってくれる人はいる。」
児童相談所の担当の方の言葉は、冷たく感じるどころか救いだった。
そして、ようやく呼吸の仕方を思い出すことができて、普通の呼吸に戻った。
【連載に関するお知らせ】
10話の完結まで、一気に書く予定でした。
でも書き進めるうちに、思っていた以上に心の奥に当時のことが残っていることに
気が付きました。
今はまだ、うまく文章に落とし込むことが出来ません。
続きは整理を済ませて、
書けるようになった際
発表させていただけますと幸いです。
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