朝早く、仕事の準備を終えた夫が
私と息子の眠る部屋に顔を出した。
「行ってきます。帰りは17時頃になると思う。また帰る前に連絡するから。」
「行ってらっしゃい。気を付けて。」
最近の出来事がリセットされたようなごく普通の会話をかわした。
喧嘩をしたいわけではない。
でも、パラレルワールドに迷い込んだような違和感を覚えた。
「子どものことだけを考えたい。」とそれだけを願い、見送った。
ニコニコと子どもをまっすぐ見てあげたい。
でも、頭の中ではずっと同じ言葉だけを繰り返した。
「これから先、どうやってふたりで生きていこう。」
首も座らない子どもを観察しながら、涙が勝手にあふれて止まらなくなった。
その涙の理由を説明する必要がない部屋で「今のうちに」と止まるまで泣いた。
気が付けば、夫が帰る時間になっていた。
「いまから帰ります」と夫からのLINEを開いたまま返事はしなかった。
顔を洗い、痛み始めたおなかにそっと白湯を流し込む。
朝のように、何事もなく静かな時間が少しでも長引いてほしい。
そんな願いもむなしく、帰宅後の夫の言葉はまた大きく私を突き放した。
「今日一日考えてたんだけど、俺明日仕事休みだし送っていくからやっぱり(実家に)帰って。車で送るから。」
「!?」
何度返す言葉を失えばいいのだろう。
「ごめん、一回子ども見ててもらえる?」とコンビニへ走った。
スマホだけを手に、実家の母に連絡した。
経緯を話すと「実家で過ごすことは構わない。でも、首も座らない赤ちゃんをまた長時間チャイルドシートに乗せて走らせるのはどうなのか、それも退院直後でまだ経過観察中なのに。」と言った。
私もそのことが一番心配だと伝えると
「一緒にいくないというなら、どちらかがホテルに泊まって離れて過ごしてみては?」と提案された。
たしかに!と思ったので、それを夫に話してみることにした。
電話が終わりに差掛ったころ、夫が子どもを抱いてコンビニ近くを歩いていた。
泣き出して止まらないから散歩に来た、と笑う。
そして、「ママがいいよね」と泣いている子どもを渡された。
並んで歩きながら、今後について話し始めると「やっぱり明日帰らないでほしい。」と言われた。
「そう」とつぶやくと、「離婚はしない」と言うので足が少し軽くなった。
ご飯を食べながら、取り急ぎ母へ帰省しなくて良くなったことをメールした。
が、
寝る直前にまた意見はひっくり返る。
「やっぱり離婚したい」と言い始めた。
それから次の日の昼頃まで、約2~3時間おきに離婚するしないを繰返した。
離婚するしないと繰り返す中「こんな環境で生活出来ない」と先に折れたのは私だった。
母へ電話をすると、70歳をこえる父が「俺が迎えに行く」と言っていたことを聞いた。
長距離運転を懸念した姉が「それなら私が行く」と言った話を、
それまで静かに聞いていた夫は「自分が送るから」とそれだけは、貫いた。


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